September 2021
日本がデンマークに注目する理由
作者: Christian Bruun Løkke-Andersen (Design Engineer), Esben Groendal (Partner, Director Japan), Peter Julius (Partner, CEO)
はじめに
デンマークは小さな国だということは、ご存知の方も多いと思いますが、実はデンマークは、世界で最も幸せな国の一つであり、最も環境に優しく、最もデジタルな国の一つでもあるのです。デンマーク人のパターンとして、自分たちのワークライフバランスに満足していて、デンマーク・デザインを高く評価し、どこへでも自転車で行く傾向があるようです。市民は政府を信頼しており、政府が市民のデータをどのように扱い、活用しているかについても政府へ高い理解度を示しています。
こういった事実のうち、ランキングや国勢データなど部分的にご存知の方は多いかもしれません。しかし、ここでポイントとして問われるのは、こういった事実が日本のビジネス、政府、組織にとってどのような意味を持つのかということです。本稿では、我々Public Intelligenceが、デンマークと日本の間で実施してきた事業を通じて、我々ならではのこの疑問への答えを概要としてご紹介します。
Public Intelligenceは、医療と福祉分野のイノベーションを専門とする民間企業です。つまり、皆様のために、皆様とともに、より良い医療を目指して事業に取り組んでいます。我々は、この事業、そしてデンマークの人々と事業を展開してきた方法を通じて、デンマークの社会が経験し、知識を得てきたこと世界へとつなげていくサポートをする会社に成長してきました。
デンマークにおける医療・福祉のデジタル化
デンマークは、公共分野でのデジタルサービスに関しては、常に世界トップクラスです。これは例えば、市役所などで通常は対面で行われていた多くのサービスが、使いやすくログインも一括でできるオンライン・ポータルサイトでできてしまうということです。
これらのサービスは効率的で、サービスの質を同等または向上させながらコストを抑えます。こういった点は、市民の求めるもの、職員や組織の目指すところをすべて尊重し、真摯に取り組むという、デンマーク社会に根ざしているものの一面です。
新しいデジタル技術から最大限の価値を得るためには、まず基本的なサービスの提案と、市民が実際に何を必要としているかを見極めることから始めなればならないため、真のデジタルトランスフォーメーションがもたらすものは何かということが、この視点から見えてきます。
これは基本中の基本であり、このことを日本の組織は実践する必要があります。我々は事例を示して教えることができますが、実際には正しい質問をして、日本の文脈の中で正しい道を切り開いていくことが重要なのです。
デンマークのデジタル化に関して、日本が知るべきポイントは、どのようなサービスが提供されているか、どのように提供されているかという部分ではなく、データに関連するステークホルダーと協力して有意義に仕事を進めるという、デンマークのやり方にあります。
Sundhed.dk
Sundhed.dkは2003年に設立され、デンマークの公的医療サービスの公式ポータルです。患者としてSundhed.dkを利用する際には、自分の健康に関するジャーナルにアクセスしたり、予防接種の概要を把握したり、検査結果を確認したりすることができます。つまり、市民と医療従事者が情報を見つけ、コミュニケーションを図ることができるのです。Sundhed.dkは、医療分野における最大限のインサイトと透明性を提供することで患者を力づけ、医療従事者が患者の病歴に関する臨床情報に簡単にアクセスできるようにしています。

Borger.dk
Borger.dkは、市民が公共サービスに関する情報をオンラインで見つけ、それらをデジタルで活用できる共有型オンラインポータルです。Borger.dkは、デジタルによるセルフサービス、公共部門に関する情報、および公共部門とのコミュニケーションへアクセスするためのシングルポイントとして、2007年に運用開始されました。
Borger.dkは、公共部門全体で約2,000ものオンラインでできるセルフサービスのソリューションを提供しています。Borger.dkにアクセスすると、例えば、子供の保育園の待機児童リストへの登録、住所変更の報告、児童手当の申請、GP(一般開業医)の変更、確定申告の完了など、様々なことが可能になります。

健康に関するデータ (Health Profiles)
2010年、2013年、2017年と、5つの地域において、デンマーク保健局と南デンマーク大学の国立公衆衛生研究所が、成人人口の健康と病気に関する調査を行いました。その結果、デンマーク人の成人における健康状態、病気、ウェルビーイングに関する独自の概要を示す「The National Health Profile(国民の健康に関するプロファイルデータ)」が作成されました。
データ収集は、全国のデンマーク人(16歳以上)を対象に配布されたアンケートに基づいて行われました。回答率は54~59%となっています。2021年に再度、デンマーク人の健康状態に関する調査を実施する予定です。
この調査は、健康と健康に関連した生活の質の存在と分布、健康に関する行動、病気、GP(一般開業医)との接触、社会的関係を対象としており、治療機関での病気、死亡率、社会的イベントをカバーしているデンマーク国内の情報システムでは得られない分野のデータであるということです。The National Health Profileは、国の主導により計画される際や、デンマークの自治体向けの健康促進パッケージの推奨事項を更新する際に利用されます。

予防医療パッケージ
予防医療パッケージは、自治体の疾病予防活動を支援するために作成された、最先端の科学的知識に基づく一連の推奨事項です。このパッケージは、デンマークの保健委員会によって提供されており、推奨事項は簡潔で実行可能なものとなっているため、各自治体が直接実施することができます。パッケージは現在、身体活動、栄養、メンタルヘルスなど11の重点分野をカバーしています。それぞれの予防医療パッケージは、個々の市民の健康と幸福にとって非常に重要な1つの要因に焦点を当てています。
この特徴のある取り組みには、良い点がいくつかありますが、特に注目したいのが「知識の共有」です。デンマークのシステムがどれも比較的うまく機能している理由のひとつは、関係者が知識を共有し、知識やベストプラクティスを遵守していることです。人々は同じ課題に直面しているので、同じ解決策を見つけるのに時間をかける必要がないため、効率性が高まります。認証済みの実用的で良い知識の共有をサポートするプラットフォームとワークフローへの投資は、絶対に重要です。
また、デザインが果たす役割にも注目すべきです。日本では、この文書と似たタイプの報告書やテキストを作成する際に、報告は情報を提供するだけで十分であると言わんばかりに、情報のデザインやレイアウトに注意を払うことはほとんどありませんでした。しかし、デンマークでは、多くの公的機関や民間企業が、情報を活用するためには、ちゃんと分かるように提示しなくてはならないと認識しています。

終わりに
日本がデンマークに注目する機会が増えている理由について、簡単にご紹介させていただきました。ご一読ありがとうございました。我々は今回、デンマークの社会がどのように機能しているのかについて、その表面的な部分に少し触れたに過ぎません。もっと知りたいというご要望があれば、さらに詳しくお伝えできる機会を設けたいと思います。
今回の内容について詳細な情報をご希望の場合、また他のコンテンツに関してもオンラインでご覧いただけますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。